3月5日(金)の東京分会会館、グルジ・バレエの東京公演2日目は「ロミオとジュリエット」。プロコフィエフが作曲したワタシが一番好きなバレエ音楽、バレエ作品である。会場は、3日のジゼルとよりはちょっと入っているけど、やはり空席が目立つ。3〜4階は半分以下の入りかな?全体で7割程度の入りという感じだろうか。
しかし、結果的にはこの客の入りとは思えないほどのスタンディングオベーション、・・・繰り返されるカーテンコール。完全な舞台からは程遠い内容だし、ツッコミどころはいくつもあるんだけど、それでもここまでスバラシイ舞台ってそうはないんじゃないだろうか? そう思わせる内容だった。
まずダメな点から言うと、オーケストラ。さすがに酷すぎ。音楽には甘いといわれるバレエファンでも、この演奏内容にはがっかりじゃないかな。ガサツな弦楽器、ニュアンスの乏しい管楽器、揃わないアンサンブル、・・・・怜悧で鋭角的な音楽が求められるプロコフィエフの要求水準とは程遠いレベルだったと言わざるを得ない。バレエもオペラと同様に、音楽と舞台の総合芸術である。その片輪たる音楽が、このレベルで、どうして総合芸術足りえるだろうか? 主役にスターダンサーを起用すれば客は呼べるかもしれないが、この点、主催者にはキチンと考えて欲しい。
さらには、簡素すぎる舞台装置、・・・まぁ、これは仕方がないとしても、最終幕はカーテンが下りるの早すぎるでしょ? 「ジゼル」のカーテンコールのときも、カーテンが下りるタイミングがおかしかったりして、どうも裏方さんとの呼吸が会っていない感じ。あとは、まぁ、演出の好みといってしまえばそれまでなのだが、ワタシはやっぱりマクミラン版のほうが好きだなぁ。演劇的で、ジュリエットの心理描写も巧みだし。この版だと、舞台の雰囲気が東欧っぽいし、太守の威厳も薄い。ローレンス神父の教会も友達のアジトっぽいし、神父様への畏敬の念が希薄な感じ。さらに有名なバルコニーのシーンでバルコニーなし! ジュリエットの墓の中でのパリス vs ロミオとの決闘もない。
そんな問題点を抱えながらも、この日の舞台を感動のレベルにまで引き上げたのは、ニーナ・アナニアシヴィリとアンドレイ・ウヴァーロフの二人の存在だ。
ジュリエットは13歳、ロミオは17歳という物語を演じるには、二人の実際の年齢はかけ離れていると言わざるを得ないケド、しかし、この二人の演じる物語は説得力がある。乳母と遊ぶニーナ=ジュリエットの無邪気さは、13歳のそれと言っても決して違和感はないものだが、ロミオとの(バルコニーのない?)バルコニーのシーンや寝室のシーンで演じる愛情表現は、13歳のそれとしては成熟しすぎている感はある。でも、その心理表現の豊かさを見ていると、そんな年齢のことは仔細な問題に思えてくる。
ロミオの愛情は、比較的、直線的な愛情なので、・・・たとえば歌劇「椿姫」におけるアルフレードのそれに似て、ジュリエットのそれと比べると表現力はさほど要求されないと思われるけど、ジュリエットの愛情表現・心理表現の対になる役柄ゆえ、その存在は極めて重要だ。ウヴァーロフとアナニアイヴィリとの信頼関係なくしては、ジュリエットの表現もしぼんでしまうからだ。13歳と17歳が描き出す一途さゆえの悲劇的な愛が、この二人の主役の深い信頼関係の中から紡ぎだされる。
注目を集めた客演の岩田守弘。キャラクターダンサーらしいマキューシオって感じで、どこか道化っぽい動きが特徴的だった。その切れ味はサスガで、キビキビとしていて気持ちよい。
決して完璧な舞台ではない。むしろ欠点のほうが多い舞台だった。でも、・・・もしかしたら、ニーナのジュリエットを見るのは、これで最後になってしまう可能性もある。この会場にいた誰もがそういう気配を感じ取っていただろうと思う。今後は指導者としての比重が、だんだんと大きくなっていくんだろうなぁ。それは仕方がないことだけれども、この日のニーナを見る限り、身体能力の衰えを上回る表現力の豊かさを身につけていると思う。ぜひ、またステージ上の彼女を見たいなぁ。
≪ロミオとジュリエット≫ 全 3 幕
2010年3月5日(金) 18:30〜21:30
音楽 : セルゲイ・プロコフィエフ
台本 : レオニード・ラヴロフスキー,
セルゲイ・プロコフィエフ,セルゲイ・ラドロフ
振付 : レオニード・ラヴロフスキー
振付改訂 : ミハイル・ラヴロフスキー
振付改訂補佐 : ドミートリー・コルネーエフ,イリーナ・イワノワ
アレクセイ・ファジェーチェフ
装置 : ダヴィッド・モナヴァルディサシヴィリ
衣裳 : ヴャチェスラフ・オークネフ
衣裳デザイン補佐 : ナティヤ・シルビラーゼ
照明 : ジョン・B・リード
照明デザイン補佐 : アミラン・アナネッリ
舞台監督 : ニアラ・ゴジアシヴィリ
指揮 : ダヴィド・ムケリア
管弦楽 : 東京ニューシティ管弦楽団
<出 演>
ジュリエット : ニーナ・アナニアシヴィリ
ロミオ : アンドレイ・ウヴァーロフ
ティボルト(キャピュレット卿夫人の甥) : イラクリ・バフタ−ゼ
マキューシオ(ロミオの友人) : 岩田守弘
ヴェローナの太守 : パータ・チヒクヴィシヴィリ
キャピュレット卿(ジュリエットの父) : ユーリー・ソローキン
キャピュレット卿夫人 : ニーノ・オチアウーリ
ジュリエットの乳母 : タチヤーナ・バフターゼ
パリス(ジュリエットの婚約者) : ワシル・アフメテリ
パリスの小姓 : テオーナ・ベドシヴィリ
ローレンス神父 : パータ・チヒクヴィシヴィリ
ジュリエットの友人 : ラリ・カンデラキ
吟遊詩人 : ヤサウイ・メルガリーエフ
モンタギュー卿(ロミオの父) : マヌシャール・シハルリーゼ
ベンヴォーリオ(ロミオの友人) : ゲオルギー・ムシヴェニエラーゼ
居酒屋の主人 : ベサリオン・シャチリシヴィリ
【上演時間】 約3時間 【終演予定】 21:30 (3/5)
第1幕 60分 − 休憩 20分 − 第2幕 30分 − 休憩 20分 − 第3幕 40分