11月30日は、シュツットガルト・バレエの東京公演最終日。このバレエ団の看板的な演目であるジョン・クランコが1965年に振り付けした「オネーギン」の上演だ。先日の「眠れる森の美女」が8割弱の入りで、ちょっと空席も目立ったにもかかわらず、日曜日のオネーギンは9割強の入り。多少の空席はあるものの、ほぼ満席状態だ。
オネーギン:フィリップ・バランキエヴィッチ
レンスキー:アレクサンドル・ザイチェフ
タチヤーナ:マリア・アイシュヴァルト
オリガ:エリザベス・メイソン
管弦楽:ジェームス・タグル指揮 東京シティフィル
ストーリーは、基本的にオペラ版「エフゲニー・オネーギン」と一緒。しかし音楽はまったく違う。オペラ版からの音楽の採用は皆無で、チャイコフスキーのピアノ曲などをクルト=ハインツ・シュトルチェが編曲したものを使っている。ワタシは予備知識もなく見に行ったので、この音楽を聴いて驚いた。これって、・・・たしかにメロディ・ラインはチャイコフスキー的な部分もあるけど、オーケストレーションがちょっと違うんじゃない?という感じで聴いていた。そして、幕が進んでも、聴いたことがある音楽は全然出てこない。あの有名な「ポロネーズ」だって、「えっ」という感じで違う。調べてみると、どうやらこの部分はオペラ「チェレヴィチキ」の「ポーランドの踊り」というものらしい。
したがって、オペラファンがこの演目のバレエを予備知識ナシに見に行くと、ちょっとびっくりすると思う。そういえば、あのマクミラン版の「マノン」も、マスネ作曲のオペラ「マノン」からはひとつも採用せずに、マスネの他の楽曲からつなぎ合わせてバレエ版「マノン」を作り上げた。「マノン」の初演は、この「オネーギン」の初演から9年後。かつては同僚だったクランコとマクミランだが、この「オネーギン」はマクミランにも大きな影響を与えたのかもしれない。
振り付けは、やはり演劇的なアプローチだ。マクミランの振り付けの作品を見たことがある人だったら、ある種の共通点を見つけるに違いない。オペラとバレエでは表現方法が大きく違うけれど、細やかな心理的な描写では音楽的に長けているオペラ版の方がいいと思うけど、舞台とバレエの美しさは別の魅力がある。そこに無理に甲乙をつけるというのも無粋だろう。
この日のソリストは、みんな高水準。特にタチヤーナのアイシュヴァルトの美しく細やかな心理描写、そしてところどころで見せるスピード感に見入ってしまった。個人的には、こういう演劇的なバレエは大好き。再来日時には、またこの演目を見に行きたい。